高齢者と老後。現役ヘルパーが考えたこと。

認知症と上手に付き合う-1

訪問介護員として私が担当させて頂いたAさんは、認知症状が進み日にちや時間はもちろんのこと、ついさっき起きた出来事も忘れ、日々の生活の流れもわからない状態の方でした。
とても性格の明るいAさんは私たちヘルパーが来ることをとても楽しみにされ、いつも笑顔で迎え入れて下さいました。
認知症の進行に伴い、分からないことや忘れることが多い日々を過ごすAさんにとって誰かと一緒に過ごす時間はとても安心できる時間だったに違いありません。
Aさんは結婚されましたが子供を授かることがなく、最愛のご主人にも早くに先立たれてしまいました。
弟さんが一人いらっしゃいましたが、弟さんも高齢であり遠く離れた県外に住んでおり、一人暮らしをされていました。
ある日Aさんのお宅を訪ね、チャイムを鳴らすと
「は-い。待ってました」
と声がしました。待ってましたとおっしゃって下さいましたが、Aさんは誰が来たのか分かってはいません。
ただ、誰か来てくれたことが嬉しくていつもそうおっしゃいます。
顔を見ると決まって「どちら様?」と
「ヘルパーです」と言い制服を指差してみると
「さあ!上がって!!上がって!!」と満面の笑みで迎え入れて下さいました。
Aさんは上着のシャツを足にはかせ、上半身は下着姿のままでした。洋服の着方もわからなくなっているものの、着替えようとする気持ちと行動する力がありました。
「今日は夜冷え込むみたいですよ。暖かい服に着替えましょうか?」
と誘導してきちんと服を着ていただきました。
洗濯機が回っている音がするので覗いてみると、何も入っていない洗濯機が回っています。洗濯する気持ちがあっても、そこに服を入れることを忘れてしまったようです。

トイレ掃除をしようと便器を覗くと洋服が入っていることもありました。
洗濯機と間違えてしまったのでしょう。その上から排泄を行っていました。
そこに衣類が入っている認識はなくても、トイレで排泄することはできました。
一緒に献立を考えることもできました。電子レンジを開けると鉛筆立てやお菓子の缶が入っていてびっくりすることもありましたが、
発見するとあまりにも意外な行動に不思議と笑みがこぼれました。
Aさんからのサプライズどっきりのように感じていたのです。
もちろん、どのような行動をとられるか分からないので、ガスは止めてあり、電気コード類は常に使用したあとはコンセントを抜くように徹底してありました。
Aさん自身はコンセントを入れれば使用できる認識ができなくなっていたので火事になる心配もありませんでした。
そんなAさんが、私はとても大好きでした。
晩酌が楽しみで少しのお酒をたしなみながら、歌を歌って聞かせてくれました。一緒に使用した食器を洗いながら笑い話に花を咲かせる時間がとても好きでした。
認知症を伴うと出来なくなることばかり考えてしまいますが、出来ることもたくさんあります。出来ることを見てほしいのです。
まわりは心配に思ったり、思うようにいかないことで腹が立つこともあるかもしれませんが、一番不安を抱えているのは本人さん自身なんです。
子育てを思い出してください。何もできない子供が少しずつ出来ることが増えるのをみて幸せじゃなかったですか。
認知症の症状も同じようなことなんです。何もできなくなる子供へ返り、その中で出来ることの発見に幸せを感じるって考えはできませんか。
認知症は病気です。症状を理解し対応することができれば自分らしい生活を送ることは可能です。認知症を患っても自宅で生活していくことも可能です。
その為に私たちヘルパーや介護サービスはあります。

専門的な知識をもつ介護従事者が傍にいれば、悩みも一緒に考え改善へと導きます。
一人ではありません。皆と手を取り合って朗らかに生活していきましょう。

 


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